今夜、主人が部下たちを連れて帰宅しました。

定年を間近に控え、その上バリ島へ移住することになれば、長年一緒に働いてきた仕事仲間たちに会うことも難しくなります。
きっと主人なりに、別れを惜しんでいるのでしょう。

今夜自宅にやって来た3人は、もうずっと長い間主人の下で働いてくれている人たち。
わたしも何度かお会いしたことがあるので、彼らのことはよく知っています。

いつものようにみんなの好きな酒の肴を何品か作り、酒席を整えました。
その後2階へ上がろうとしていたわたしに、部下のひとり田中さんが話しかけてきました。
3人の中でもいちばん若い田中さんは、人懐こい笑顔が印象的な好青年です。

「本当にバリ島へ移住されるんですか?」
いまいち信じられない、というような顔で田中さんは尋ねます。
「まだ本決まりになったわけではないけれど、少なくとも主人は乗り気みたい」。
「そうですか。正直、ご本人から移住の話をうかがった時は、冗談かな、とも思ったんですが・・・。やっぱり本気だったんですね、すごく羨ましいな」。

若い彼からしてみれば、海外で悠々自適な生活を送るのはただただ羨ましいことのようです。
きっと彼くらいの年頃なら、今までとは違う新しい生活に希望だけがあるのでしょう。
たとえ向こうでなにかが起こったとしても、その若さと行動力で乗り切っていけると思います。

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でも60代の夫婦がふたり、知らない土地で暮らしていくのは希望よりも不安の方が大きいのです。
それに心配事もたくさん。
素直に羨ましがる田中さんを見て、自分もこんな風に希望だけが持てたらどんなにいいだろうと思いました。

もちろんだからと言って、まったく希望が持てないかといえばそうではありません。
今まで一緒に過ごせなかった分、バリ島では主人と様々なことに挑戦したいと思っていますし、ゆっくり夫婦の時間を楽しみたいとも思います。
だから不安や心配事ではなく、もっと楽しみなことを考えて前向きになるべきですよね。
田中さんの笑顔を見て、改めてそう思いました。