インドネシアの土地制度

投資をする際に最も避けたいことは、騙されることです。
騙されることは国内でも海外でも起こり得ることですが、特に現地の事情も土地勘もない海外での不動産購入では外国人はカモになりやすいです。
そうならないために大切なことは、信頼できる業者選び、土地制度と習慣を理解することです。

 

不動産市場の概要

インドネシアの不動産市場は、2007年の世界金融危機(サブプライムローン問題)による影響をほとんど受けませんでした。現在も世界経済との相関性は見受けられません。
経済成長と若年層の多い人口構成によって、堅調に国内消費が推移しているのです。
東南アジアの他の国では、海外投資家からの資金流入によって価格上昇を起こして
いますが、インドネシアの場合、国内での需要も多いといえます。
インドネシアの人口は、約2億4,000万人。
世界第4位の人口大国であり、毎年1.5%ずつ人口が増加しています。
その経済規模は東南アジア最大です。

 

権利関係の問題点

不動産を買うとき、気になることの1つに権利関係があります。
特に、異国の地インドネシア・バリ島であれば、なおさらです。
ところが、あなたがその権利関係をバリ島で地元の業者に聞くと、
同じことでも、人によって答えが違い困ってしまうことが多いと思います。
私たちも、バリ島で事業を始めた頃は、本当に困りました。
バリ島の不動産の権利は、複雑です。
その理由は、「登記の不完全さ」と「不動産権利の種類」「権利者の資格」
にあります。
日本では、登記はきっちりと整備され、電子化されており、
全国のどこの土地でも確定した権利を確認することができます。
バリ島では、そうでないので権利を確認することに手間がかかるのです。
また、インドネシアでは権利の種類が11種類もあり、
権利者もインドネシア人、外国人、現地法人、外国法人などによって、
取得できる権利が違います。
日本は、太平洋戦争の敗戦によって、それまでの制度が白紙になり、
新しい制度が結果的にスッキリと導入されましたが、
インドネシアは、新しい制度がありながら古い慣習が残っていて、
そうしたことが、不動産の権利関係を複雑化させています。
正直言って、初めの頃は、私たちも不安が多かったのです。
でも、だからチャンスだと思いました。
日本は多くの面で成熟し、誰でも簡単に登記を確認できますし、
土地の相場もインターネットで検索すれば、だいたい分かります。
それは安心ではありますが、逆に言えば、チャンスが少なくなる、
とも言えるのです。
インドネシアは、まだまだこれからの国です。
様々な問題を整備していく過程にあります。
それをリスクと捉えるか、チャンスと捉えるかは、それぞれです。

インドネシアの権利関係は難しい

インドネシアの土地制度は、1960年までオランダ統治時代の制度による欧風土地と、
インドネシアの慣習法が適用される土地が併存していました。
この併存は1960年「土地基本法」により一元化されました。
しかし土地の権利関係の登記には、手間や費用がかかるため、整備が遅れ、大都市やバリ島などを除き、多くの土地が今も未登記のまま権利証も発行されていないのが実情です。
また、土地基本法に触れていない従来の慣習法は、その後も適用されており、このことが土地の権利関係を一層複雑化させています。

インドネシアで土地関係の権利を取得するは、本当に大変です。
登記されている土地であっても、本当に真の権利者かどうか疑わしいのです。
未登記の土地であれば、用地取得許可に加え、数世代前までさかのぼって権利者と土地の歴史の関係を調査する必要があります。

インドネシアでは、土地基本法により不動産事項の多くは、国家土地局が(BPN)が
管轄しています。
国家         :インドネシア法に従い、すべての土地を管理
国家土地局(BPN)  :土地の所有権や利用権を管理、各種許可の付与
PPATが作成した証書に基づき、不動産を登記する
土地証書作成官(PPAT):不動産登記状況の確認、取引証書の作成、BPNへの登記申請

土地の権利の種類

インドネシアの土地基本法では、国家が最高の支配・管理権(Hak Menguasai Negara)を持つと規定されています。したがってインドネシアで土地に関する権利を取得しようとするときには原則として国の許可が必要です。
基本法規定で規定している土地の権利は、
1,Hak Milik ( 所有権 )
2,Hak Guna Usaha (事業権 )
3,Hak Guna Banguna (建設権 )
4,Hak Pakai(使用権 )
5,Hak Membuka (開墾権 )
6,Hak Memungut Hasil Hutan (森林産出物採取権)
7,Hak Sewa (借地権)
8,Hak Usaha Bagi Hasil(小作権 )
9,Hak Menumpang (滞在権)
10、Hak Sewa Tanah Pertanian (農地賃借権)
11,その他 (hak-hak lain yang tidak termasuk dalam hak-hak tersebut diatas yang akan ditetapkan)
以上の11種類です。
このうち土地台帳に登記され、権利書が発行されるのは1~4のほか、運用権、区分所有権があります。
インドネシアの土地の権利を考える上で大切なのは、
「日本と考え方が違う」ということです。
この点はすごく重要なので、くれぐれも心に留めておいてください
日本では、不動産の権利は
「買う=所有権」
「借りる=賃借権」
しかありません。

インドネシアでは、日本でいう所有権のような権利として、以下の権利があるのです。
1,所有権
2,事業権:事業を行う土地として事業権を買い、長期的に更新していく。
3,建設権:建物を利用するものが建設権を買い、長期的に更新していく。
4,使用権:土地を使用したいものが使用権を買い、長期的に更新していく。
そして、それらの権利は譲渡することができます。

確かに、権利が細かく分かれていて難しく感じますが
(実際、権利の確定は大変な面があるのですが)
きちんと権利を確定させてしまえば、なんてことはないのです。
では、権利を確定させるために以下にそれぞれの権利について解説していきます。

1,Hak Milik ( 所有権 )
所有権は土地基本法における最も強い権利であり、相続される権利です。
他の権利は、相続ではなく、譲渡の手続きが必要です。
権利の保有者
個人の場合、土地に所有権を設定できるのは「インドネシア国籍者のみ」と
されており、外国人は不可です。
法人の場合、所有権を設定できるのは政府系銀行、農業組合連合、宗教・社会団体とされています。
国内外資本の別にかかわらず、一般の会社を含むこれら以外の法人は
土地に所有権を設定することはできません。
つまり、普通の会社(法人)は、所有権を持てません。
インドネシアでは、「法人は事業のために土地を利用するわけだから、所有ではなく利用する権利として、事業権、建設権、使用権があるのです。
インドネシアに住む外国人が、「所有権」と言っているのは、
正確には、事業権、建設権、使用権のことなのです。
繰り返しになりますが、外国人、二重国籍者、一般的な法人は、
所有権の土地取引ではなく、他の権利の土地取引をするのです。
では、日本でいう「土地の転売」ができないのか、というと。
できます!
所有権のある土地を使用権で買い、
外国人には賃借権で売り、
インドネシア人には所有権で売り、
法人には使用権で売る、
なんか、よくわからないですよね。
でも、そういうことになるのです。

2,Hak Guna Usaha (HGU:事業権)
事業権は、土地を農業、プランテーション、漁業、牧畜などの目的で使用する権利です。使用目的に条件がついているため外資系企業にはほとんど利用されていません。
事業権が設定される土地は国有地だけです。
権利の保有者
事業権は、インドネシア国籍者またはインドネシアの法律により設立されたインドネシアに所在する法人(外国投資会社PMAも含む)に与えられます。

3,Hak Guna Bangunan (建設権)
建設権は、土地の上に建物を建設しそれ所有する権利です。
国有地、管理権の設定された土地、所有権の設定された土地に設定できます。
この権利はインドネシア人かインドネシア法人しか取得できません。
日本人がこの権利を取得するにはインドネシアに法人を設立する必要があります。

権利の保有者
インドネシア国籍者またはインドネシアの法律により設立されインドネシアに所在する法人(外国投資会社PMAも含む)。建設権者がその地位を変更した場合は、1年以内に条件を満たす者に譲渡する必要があり、譲渡しない場合その土地は政府に戻されます。
個人所有の土地の建設権は、建設権者と所有権者との合意を土地証書作成官(PPAT、公証人が兼任)のもとで証書化する必要があります。
有効期限
建設権の有効期間は最長30年で、さらに最長20年の延長が可能。
運用権が供与された土地の建設権の延長は運用権者の事前同意が必要で、
当初契約設定時と同額の費用が必要である。更新も許可される場合があります。
譲渡及び担保権
建設権は、売買、交換、資本参加、贈与、相続という方法で譲渡が可能。
また、抵当権を設定することにより借入保証にすることもできるが、抵当権は建設権の消滅と同時に失効します。
義務規定
・建設権供与決定に記載された金額と支払方法で納入金を支払うこと。
・建設権供与決定並びに供与契約に定められた使途と条件に従い土地を利用すること。
・土地・建物を良好な状態に維持し環境を保護すること。
・権利消滅後は速やかに国/運用権者/所有権者へ土地を返還すること。
・権利消滅後の権利書の土地管理当局への返却すること。
権利の消滅
次の場合、建設権は消滅し、土地は国/運用権者/所有権者へ返還される。
・建設権の有効期間満了の場合。
・条件を満たさない/上記義務の不履行/裁判所の判決/権利取消の場合。
・事業権者が自主的に手放した場合
・土地が放置された場合
・土地が処分された場合
・建設権者がその地位を変更し、1年以内に譲渡しなかった場合

4,Hak Pakai(使用権)
国有地、運用権が供与された土地、個人所有権の土地を一定の目的のために使用する権利です。外資企業以外、外国個人にも認められます。この権利は、次第に権限が強められています。
権利の保有者
使用権を取得できるのは、インドネシア国籍者、インドネシアの法律によって設立された法人、中央政府機関と地方政府、宗教・社会団体、インドネシアに居住する外国人、インドネシアに代表部を有する外国法人、国際機関と外国政府のインドネシア代表部。
使用権者がその地位を変更した場合、その使用権は条件を満たした者に譲渡する必要があり、1年以内に譲渡しない場合その土地は政府に戻されます。
有効期限
国有地、運用権のある土地の場合、同一目的に使用される場合に限り、原則最長25年。さらに最長20年の延長が可能であり、更新も可能です。
個人所有権者の土地の使用権は最長25年で延長はできないが、証書化した合意により新規の使用権として更新することができます。
譲渡・担保権
使用権は売買、交換、資本参加、贈与、相続という方法で譲渡が可能。
個人所有権者の土地上の使用権は、土地使用契約書に規定する場合に限り譲渡可能。
また、全ての使用権は抵当権を設定することにより借入保証にすることができますが、抵当権は使用権の消滅と同時に失効します。
義務規定
・建設権供与決定、運用権の土地使用契約書、所有権者との使用権供与契約に定められた金額と支払方法での納入金の支払うこと。
・建設権供与決定、運用権の土地使用契約書、所有権者との使用権供与契約に定められた使途と条件に従って土地を利用すること。
・土地と建物を良好な状態に維持し環境を保護すること。
・権利消滅後は速やかに国/運用権者/所有権者へ土地を返還すること。
・権利消滅後の権利書の土地管理当局への返却すること
権利の消滅
次の場合、使用権は消滅し、土地は国/運用権者/所有権者へ返還されます。
・使用権の有効期間満了
・条件を満たさない/上記義務の不履行/裁判所の判決/権利取消/公共目的のため期間途中で事業権が取り消された場合
・事業権者が自主的に手放した場合
・土地が放置された場合
・土地が処分された場合
・使用権者がその地位を変更し、1年以内に譲渡しなかった場合

使用権が放棄され延長や更新がなされなかった場合は、権利保有者は土地にある建造物を取り壊し、土地を国に返還しなければなりません。建造物が引き続き必要とされた場合には、大統領決定で規定される形態と金額で補償が与えられます。

ストラータ・タイトル
アパートなどで建物全体を入居世帯で分割し、そのユニットを所有する場合、ストラータ・タイトル(Strata Title)が採用されています。法令では「共同所有地の権利とその上の建築物の区分所有」(Hak atas Tanah Kepunyaan Bersama dan Pemilikan Bagian-Bagian Bangunan Yang Ada di Atasnya)に該当します。
ストラータ・タイトルの権利書発行については、
「共同所有地の権利」は、複数の者が共同で所有する土地の権利とされており、建築物が区分所有される場合に、各所有についての権利書を発行することとなっています。

外国人の不動産手続きの留意点

外国人の定義
外国人(個人)とは、インドネシア国籍ではなく外国籍を有する者のことで、インドネシアに居住する外国籍者、インドネシア国籍のほかに外国籍も有する二重国籍者も外国人に含まれます。
例えば、インドネシア人と結婚してインドネシア国籍を持つ外国人は、元の外国籍を完全に手放してインドネシア国籍だけになっていれば外国人とはなりませんが、元の外国籍が残っていれば二重国籍になり外国人となるのです。
「外国法人」とはインドネシアの法律によって設立されていない会社等を指し、
例えば、インドネシアに駐在員事務所などが「外国法人」となります。
PTの形で設立された外国投資(PMA)会社はインドネシアの法律によって
設立された会社であるので、外国法人ではなくインドネシア法人となります。
こうした場合、インドネシアの法律によって設立された法人かどうかが問題とされ、
出資比率は関係ありません。

外国人が取得できる土地
外国人、外国法人が所有できるのは、土地の使用権、あるいは借地権です。
でも、現実問題としては、ほとんど問題とはなりません。
というのは、個人なら借地権で住めばいいわけですし、
現地に法人を設立すれば使用権を買えばいいのです。
土地を売買する場合は、外国人なら外国人が得れる権利で売ればいいわけですし、
インドネシア人ならば、彼らは所有権に変更することができるのです。

 

実際の不動産手続きの流れ

1,気に入った土地、物件を見つける
信頼できる業者を見つける。
まず、これが大切です。
現実には「2」以下の流れは、業者がやります。
価格交渉、権利関係、契約書、契約書の日本語訳、権利の登記、
建築設計、建築確認、など様々なことがあります。
よほどバリ島に精通している人でない限り、業者が中心になって
やることになります。

2,価格・条件の交渉
取引価格、支払い方法、支払い時期、売主の所得税・買主の名義変更料の負担、
土地譲渡証書を作る土地証書作成官の選定など決めます。
この際、交渉・決定内容を簡単な書面にしておくことが大切です。

3,権利・登記関連書類の審査
不動産登記に必要な書類
所有者が個人の場合
・土地の権利書
・土地所有/占有者によって納められる土地保有税(PBB)の納付証明
・所有者の身分証明書(KTP)
・家族証明(KK、土地の売買には配偶者の同意が必要)
・婚姻証明

所有者が法人の場合
・会社定款
・土地売却を決議した株主総会議事録(RUPS)
・事業許可(SIUP等)
・商業省の会社登録証(TDP)

個人・法人ともに必要なもの
・納税者番号(NPWP)
・電気・水道・電話代の支払い証明(最新月のもの)

4,土地証書作成官による土地権利書の確認
土地証書作成官が土地権利書に不正や不足がないか、
その土地を管轄する国土庁事務所にてチェックします。

5、土地譲渡証書(契約書)のチェック
ノタリス(司法書士)がインドネシア語で契約書を作成し、
それを日本語に訳し、条件・内容を確認します。

6,所得税・名義変更料を納付
権利書が真正であることが確認した後、所得税・名義変更料を納めます。
課税基礎額は、実際の土地取引価格または政府が毎年定める土地課税対象販売価格(NJOP)のうち高い方が適用されます。
税率は所得税・名義変更料とも5%で、名義変更料は非課税額を控除した額に5%をかけます。

7,土地譲渡証書の作成
所得税・名義変更料の納付証明を確認後、土地譲渡証書(AJB)が作成されます。
・代金の完済
・証書署名(完済が確認されて初めて土地譲渡証書に双方が署名し、売買成立)
・権利書の名義変更
・土地譲渡証書と土地権利書、土地保有税の過去5年間の納付証明コピー等を土地を管轄する国土庁事務所で名義変更します。費用は土地取引代金の1%前後です。

 

不動産制度のまとめ

インドネシアでは、大都市やバリ島などの一部の地域以外は、土地基本法による登記が進んでいない状態にあります。
そのため、土地に関する権利を取得するときには、権利保有者や土地の境界を登記によって確認できないことが起ります。
買主としては、売主側に先に登記してもらい権利を証書化してから買い取るのが安全です。しかし、この方法は登記に時間がかかる上に、売主が登記費用を負担したがらない、あるいは負担する余力ないことが多く、現実には、この方法はあまり行われません。
ほとんどの場合、ノタリス(司法書士)と土地証書作成官が、売主から土地権利書、権利放棄書、売主がその土地の所有者であったことを証明する書類、その他必要書類を徴収し、それらを管轄する国土庁事務所にてチェックし、買主側が国に対して土地に対する権利の取得許可及び登記の申請を行います。

ここでご理解いただきたいのは、日本においてもトラブルが起きる可能性はあります。
それはインドネシアでも同じです。
現実に弊社は、日本での事業に軸足をおきながら、バリ島に進出し、複数のヴィラを建築し所有し、事業を継続しています。
どこの国においても同じで、要するにやり方なのです。
いずれにしても、インドネシアで土地を購入する場合は、十分注意して、必ず専門家に任せることが大切だと思います。