今日の午後、さっそく母を訪ねました。
先日妹が言っていた通り母は居間でテレビを眺めていましたが、わたしの姿を認めると笑顔で迎えてくれました。
「最近外出した?」と尋ねると、「なんだか億劫になってしまってねぇ」と心なしか元気のない声で答えます。
母くらいの年齢になると、ちょっとしたことがきっかけで急に心も身体も弱くなってしまうのかもしれません。

そんな母にバリ島への移住について話すのは、やはり心苦しいものがあります。
でもせっかく主人が兄に話してくれたのだから、わたしも母にきちんと伝えるべきでしょう。
「実はね、今日はお母さんに大事な話があって来たの」
「どうしたの、そんな改まって」。

神妙な顔つきのわたしに母は少し驚いたようでしたが、それでもわたしの次の言葉を待っているようでした。
「実はね、あの人が定年退職したら、わたしたちバリ島へ移住するかもしれないの」
「バリ島って・・・。どこにあるの?」
「バリ島はインドネシアにある島なんだけど、インドネシアは東南アジアにあるのよ」、
スマートフォンを使って世界地図を見せながら位置を説明すると、母は
「こんな遠いところにあるの」とさらに驚いたようでした。

hikouki

「なんでまた、日本を離れる気になったの・・・」。
母がそう言うのも無理はありません。
日本しか知らない母にしてみれば、バリ島への移住は突拍子もないことなのです。

わたしは自身も最初はそう思ったこと、けれど主人が望んでいること、そしてわたしもそれを受け入れたことなどを順を追って話しました。
黙ってわたしの話を聞いていた母は、最後に「ふたりがいなくなるのは淋しいけど、二度と会えないわけじゃないからね」と自身を納得させるように呟きました。

「それで、いつ引っ越すの?」
「とりあえず、あの人が退職したらしばらくバリ島に滞在してみるつもりなの。移住するかどうかはそれから判断しようと思って」
「じゃあまだ向こうに引っ越すと決めたわけじゃないんだね?」
まだ日本に留まる可能性もあると知り、母は少し安心したようでした。